現在、戸建て住宅に広く普及している窯業系サイディングも、製品として出始めた初期の頃は施工方法が完全に確立されていませんでした。施工後に発覚するようなトラブル事例があり、その代表的なものが「サイディングの直貼り工法」による問題です。
もちろん現状では、さまざまなトラブル事例をもとに各メーカーによる改善が図られているため、施工仕様も確立されています。とはいえ、現在でも外壁の専門家の多くは、このサイディング直貼りに対して警鐘を鳴らしているため、不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、サイディング直貼りに関する基礎知識を紹介するとともに、直貼り工法の見分け方やメンテナンス方法などをわかりやすく解説します。サイディング住宅に居住している方は、ぜひ参考にしてみてください。
サイディング直貼り工法とは?
戸建て住宅で採用されている窯業系サイディングには、工事がされた時期や年代によって施工されている工法が分かれています。なお、具体的にどのような施工方法があるのかといえば、以下の2通りです。
・直貼り(直張り)工法
・外壁通気工法
2000年代以降に確立されている施工方法は、通気層が設けられている「外壁通気工法」になりますが、いわゆる問題のある施工方法といわれているのが「直貼り工法」。
主に窯業系サイディングが普及し始めた1990年代に多く採用されており、空気が抜ける層を設けないで直接外壁下地に貼り付ける工法です。
直接外壁に貼り付けて仕上げていくことからも「直貼り(じかばり)工法」と呼ばれています。
サイディング直貼りと外壁通気工法の構造的な違い
現在では、問題のある施工方法として認識されている「サイディング直貼り工法」。確立されている「外壁通気工法」と比較した場合、一体どのような構造的な違いがあるのか気になっている方も多いのではないでしょうか。
これら2つの施工方法については、より本格的な構造を理解することで、直貼りの問題性を知ることができます。
直貼り工法
サイディングの直貼り工法は、下地となる柱や耐力壁に対して通気層を作らずに直接貼り付けていく構造になります。なお、具体的な構造は以下のとおり。
1.下地(柱・耐力壁)
2.透湿防水シート
3.窯業系サイディング
このように、下地の上に透湿防水シートを施工したうえで直接サイディングを貼り付けてしまうため、下地とサイディングの間に空気層を設けません。この施工方法は工期が短いメリットがある反面、空気層がないことによって湿気を外に逃がすことができないというデメリットがあります。
これが非常に問題で、内部に溜まってしまった湿気は逃げ道がなくなってしまうため、下地の木部が腐食してしまったり、カビの発生を誘発してしまう原因となります。
外壁通気工法
一方で、外壁通気工法で施工したサイディング住宅は、下地材の柱や耐力壁とサイディングの間に「胴縁」と呼ばれる木材を挟むことで通気層を設けます。なお、具体的な構造は以下のとおりです。
1.下地(柱・耐力壁)
2.透湿防水シート
3.胴縁(どうぶち)
4.窯業系サイディング
一般的に胴縁は厚さが15~18mmの木材を使用するため、下地とサイディングの間に15~18mmの通気層を確保できます。そのため、内部の湿気を効率よく外部に排出できるようになります。
もちろん直貼り工法よりも1つ工程が増えてしまいますが、建物を健全な状態に保てるほか、きちんと通気層を設けることで「断熱性が向上」するため、2000年代以降のサイディング住宅では主流の施工方法になっています。
サイディング直貼り工法だった場合の弊害とは?
サイディング直貼りで施工された住宅は、さまざまなトラブルが起こりやすいです。その代表的な例が、以下に挙げる3点です。
ココに注意
・外壁材の膨れや剥がれ
・雨漏りトラブルの誘発
・外壁塗装でリフォームできない
サイディングの直貼り工法だった場合に起こりうる3つの弊害について、より深堀りして解説をします。
膨れや剥がれの発生
先にも解説したようにサイディング直貼り工法で施工された場合、内部に溜まった湿気を外部に排出できません。では、この排出されなくなった湿気はどこに向かうのかといえば、ひとつは下地などの木部、そしてもうひとつは外壁材であるサイディングです。
窯業系サイディングは、外部の表面には劣化を防ぐための塗装が施されているものの、内部の裏側部分には塗装などの処理がされていません。そのため、内側でこもっている湿気を吸収してしまうことになるため、逃げ道を失った湿気は塗装面から排出しようとします。
この際に、排出しようとしている湿気が塗装面を押し上げる形になってしまうため、結果として膨れや剥がれなどの原因につながってしまいます。
雨漏りトラブル
直貼り工法によって逃げ場を失った湿気は、下地の柱や構造用合板などの木材を徐々に腐食させてるだけではなく、当然、室内に施工されているボードにも向かいます。ボード自体が水分を含んでしまうと、クロスが剥がれてしまう原因にもつながってしまうため、結果として雨漏りという形で気付くことも多いです。
さらに、通常の雨漏りだった場合は、外部からの水の侵入を防ぐ処置で改善しますが、直貼り工法の場合はそうもいきません。改善させるためには原因となる「結露」を防がなければならないため、簡易的な修理では対応できないこともあります。
また、通常の雨漏り検査とは違って内部結露が原因の場合、破壊検査といって外壁のサイディングや室内側のクロス・ボードなどを剥がさなければ確認ができないため、調査費用も高額になりがちです。
外壁塗装が出来ない
一般的な外装リフォームといえば「外壁塗装」です。外装リフォームのなかでも比較的費用を抑えてメンテナンスができる方法になるため、非常に人気のあるリフォーム種別です。しかし、サイディング直貼りで施工されている住宅は、基本的にこの外壁塗装を採用できません。
というのも、先程も解説したように、直貼りサイディングは内部結露を非常に起こしやすい構造です。そのため、外壁塗装でせっかくきれいにリフレッシュしたとしても、内部結露が原因によって早期に剥がれてしまう可能性があります。
もちろん、すべての直貼りサイディングの住宅が剥がれてしまうわけではないため、完全にできないわけではありません。しかし、塗装後の剥がれや膨れのリスクは、通常の物件よりもはるかに高くなってしまいます。
以上のことからも、仮に外壁塗装を採用した場合でも、基本的には施工品質保証を受けられないものとして考えておきましょう。
サイディング直貼り工法の見分け方
建物を健全な状態で保つうえでは、デメリットが多いサイディングの直貼り工法。しかし、自分の家が直貼り工法と外壁通気工法のどちらで施工されているのか見当もつかない方も多いのではないでしょうか。
しかし、実はこれらふたつの工法を見分ける方法は簡単です。では、どのように見分ければいいのかといえば、以下の手順を参考に確認してみましょう。
①水切り板金の確認
まず、サイディング外壁と基礎の間にある金属加工された土台(水切り板金)を確認してください。
②伸縮目地の確認
水切りの位置が確認できたら、次に伸縮目地を確認しましょう。なお、伸縮目地とは、サイディングの外壁に一定間隔で設けられている「縦の目地部分」のことを指します。※伸縮目地部分にはコーキングと呼ばれる「ゴム」のような施工がされています。
③隙間の確認
伸縮目地が確認できたら、目地部分の右側(もしくは左側)30cm以内のどこかで、水切り板金部分に物差しなどを用いて差し込んでみてください。
チェックポイント
通常、外壁通気工法で施工されているサイディング住宅は、伸縮目地の裏側に「胴縁」と呼ばれる木の下地が施工されています。
この胴縁は、一尺五寸(455mm)間隔で取り付けられているため、胴縁と胴縁の間は必然的に空洞(空気層)となります。そのため、間に物差しを入れ込んでみて、そのまま入っていくようであれば「外壁通気工法」といえるでしょう。
上記写真のように、物差しの入る余地がまったくない(サイディング分の厚み幅しかない)場合、「直貼りで施工」されている確率が高いと見ていいです。
サイディング直貼りだった場合の解決策【メンテナンス方法】
先にも解説したように、サイディング直貼り工法で施工されている物件に関しては、基本的に外壁塗装が採用できません。では、具体的にどのようなメンテナンス方法がいいのかといえば、以下の2パターンです。
・外壁重ね張り(カバー工法)
・外壁張り替え
これらのメンテナンス方法は、それぞれにメリット・デメリットが存在しますので、どのような特徴があるのかを解説します。
外壁重ね張り(カバー工法)
屋根のカバールーフ工事が主流になりつつある昨今ですが、実は外壁のカバー工法も多く採用されている工事方法のひとつです。外壁の重ね張りでは、現状の外壁を活かして新しい外壁を作り込んでいくため、張り替え工事のように撤去作業や産業廃棄物処理費用も多くはかかりません。
工期の短縮やコスト削減もできるため、採用しやすい工事方法といえます。また、外壁が二重になることで防音性や断熱性も向上するため、真夏や冬の冷暖房効率も上がり快適な住環境を確保できます。
ただし、必然的に外壁が厚くなってしまうため、建物にかかる重量や負担は増えてしまうでしょう。
外壁張り替え
一方で、外壁張り替えの場合は、撤去作業によって工期が長くなってしまったり、産廃費の処理費用が多くかかってしまうデメリットはあるものの、建物の負担を少なく済ませることができます。
また、選べるサイディングの幅も広がっていくため、デザイン性・意匠性にこだわりたい方にもおすすめの工事方法といえるでしょう。なお、張り替えは既存の外壁を撤去するため、内部の劣化状況も把握しやすく、下地の補強なども対応できるケースが多いです。
ただし、全体の工事費用や工事ボリュームは増えがちなので、コストをなるべく抑えたい方には採用しづらい工事方法といえるでしょう。
サイディングリフォームの費用相場
サイディングは大きく分けると、以下の4種類の材質があります。
・窯業系サイディング
・金属系サイディング
・樹脂系サイディング
・木質系サイディング
これらサイディングの種類によって、材料費用や施工方法の違いが出てきてしまうため、一概にどれくらいかかるかを紹介するのは難しいです。とはいえ、概算の金額を事前に知っておくことで工事の予算や予定も組みやすくなるため、ここでは一般的な概算金額を紹介します。
工事項目 | 費用相場※20坪例 | |
窯業系サイディング | 重ね張り | 130~210万円 |
張り替え | 160~230万円 | |
金属系サイディング | 重ね張り | 120~200万円 |
張り替え | 150~220万円 | |
樹脂系サイディング | 重ね張り | 150~230万円 |
張り替え | 180~250万円 | |
木質系サイディング | 重ね張り | 140~220万円 |
張り替え | 170~240万円 |
サイディング直貼り工法の注意点
外壁通気工法で施工されているサイディング住宅であれば問題ありませんが、仮に直貼りによる施工がされていた場合には、いくつか注意しておきたいポイントがあります。
ココがポイント
・透湿性塗料による外壁塗装工事
・技術力・提案力のある工事業者
このポイントを理解しつつ、工事方法を検討していかなければなりません。では、その理由を具体的に解説します。
透湿性塗料
基本的にサイディングが直貼りで施工されている場合、外壁塗装はおすすめできません。しかし、外壁用塗料のなかには「透湿性塗料」という、通常の塗料よりも湿気や水分を逃しやすい塗膜を形成する塗料があるため、場合によっては外壁塗装を採用できるケースもあります。
もちろん、塗装よりも張り替えや重ね張りを選択したほうがいいものの、工事費用が塗装工事よりも格段に上がってしまうデメリットがあります。そのため、工事の種類を選択するためには、以下のように劣化状況で分けて検討してみましょう
状況別の施工方法
・劣化が進行していない:外壁塗装
・劣化が進行している :張り替え・重ね張り
なお、部分的に傷みが進行しているようなケースでは、部分張り替えなどで対応するのがおすすめです。また、当然ではありますが、塗装工事を採用した場合は、外壁通気工法よりも劣化の進行は速い可能性があることは理解しておかなければなりません。
改修工事は専門業者へ
サイディング直貼り工法が採用されている戸建て住宅は、下地腐食状況や外壁の劣化状況など、総合的に判断して工事種別を選択しなければなりません。また、適切な工事内容をきちんと実行できる施工品質も重要な要素といえるでしょう。
特に外装リフォームの場合、建物を健全な状態で長く保つうえで非常に重要な工事種別です。施工品質が悪かった場合、工事後に不具合が発生するようなケースもあるため、きちんと技術力のある工事業者を選びましょう。
株式会社轍建築は、外装リフォームに特化した専門店です。お客様のご要望をお伺いするとともに、建物の劣化状況に合わせた最適な工事内容を提案しています。横浜市、川崎市など、完全地域密着で迅速な対応をしておりますので、信頼できる工事業者をお探しの方は、ぜひ轍建築をご利用ください。
まとめ
現状では外壁通気工法が多く採用されているサイディングも、普及当初は直貼り工法で多く施工されてきました。直貼り工法の場合、湿気による内部結露など、さまざまな弊害が出てくる可能性があるため、劣化状況に合わせて工事内容を選定しましょう。
なお、メンテナンス方法には、重ね張り・張り替え・塗装などがありますが、どれも専門性の高い工事内容になるので、プロの改修工事専門業者に依頼してより良い住環境を実現させましょう。